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■その1 塩を使う人ための常識■
日本海水学会誌第53巻1号(1999)講座

まえがき
平成9年3月で塩専売制が廃止になった。平成14年3月までは激変緩和のための経過期間とされ、専売制の名残があるが、市場構造は大きく変動している。特に家庭用小物の種類が激増し、海外からの進出もある。いかがわしい宣伝や表示も多く、ユーザーを惑わせているのが現状である。日本海水学会誌は前身が日本塩学会誌であり、塩関係の会員も多く、この機会に、誤りは誤り、判らないことは判らないこととして、塩を今一度見直し、塩に関する正しい認識をもつことの一助にしたいと思い、食用塩に視点を置いて、基礎的なことを含めて、書かせていただくこととした。

1.塩の取引形態の変化
 従来の専売塩は、小売用については「生活用塩」という分類になり、従来の塩種で塩事業センター(塩専売事業本部の後身)から元売および小売店経由で、大口の業務用塩は、「自主取引塩」として元売経由で販売される。輸入はソーダ工業用塩は従来通りソーダメーカーの直接輸入であり、その他の輸入は塩事業センターが一括して扱う。専売制がなくなったものの、平成14年3月までの経過期間は、輸入と元売機構だけは専売制のままになっている。「特殊用途塩」(年間100トン以下の試験販売用の輸入塩、局方塩、家畜用ブロック塩など)、「特殊製法塩」(にがり添加などの加工塩、平釜で作る地塩など)は従来通り自由に販売され、実質的に従来と大きな差異はないが、社会的ムードもあって、専売制廃止後、特殊用途塩および特殊製法塩は塩種および業者数ともに増加傾向にある。正確な数が公表されていないが、専売廃止時で国内251社、現在295社、平成10年春、輸入特殊用塩は72社が現在211社と急増していると伝えられた。塩種は恐らく国内だけで1000種以上と推定される。この増加の大部分が家庭用小袋と考えられるが、専売塩から移行した生活用塩は従来価格、従来品質で販売されており、特殊用塩、特殊製法塩は一般に従来の専売塩に比較し数倍〜数10倍の価格で販売されている。

2.塩の作り方
 塩の製法別に分類すると、せんごう塩、天日塩、岩塩、湖塩、副産塩がある。
 せんごう塩は釜で加熱して結晶化させる方法をいう。主な方法に、真空式、加圧式、平釜式がある。日本では大量生産に真空式、フレーク塩、凝集晶、などの小規模製塩に平釜式が使われ、加圧式は使われていない。
天日塩は塩田で海水を濃縮して結晶化させる方法で、日本の輸入塩の大部分は天日塩である。主な輸入先はオーストラリア、メキシコで、一部インドがあり、年間100トン以下の特殊用塩として、中国、インドネシア、フランスなどの塩も輸入されている。通常は工業用である。日本では天日塩を岩塩という人が多い。
 岩塩は地下から掘り出す方法と、地下に水を注入して溶解し、これを汲み出してせんごうする溶解採鉱塩がある。溶解採鉱塩はせんごう塩である。世界の塩生産の2/3は岩塩だが、日本には産出せずまた輸入も極めて少ない。地下から採掘された岩塩は、通常鉱石、土砂などを含み食用に適さないが、夾雑物の少ない岩塩が特殊用塩として極く少量、家庭用に販売されている。
 湖塩は中国奥地、イスラエル死海など不便なところで生産されている。日本へは死海の塩がテスト販売されている。通常は泥が多く溶解精製して使用にする例が多い。
副産塩は、ゴミ焼却場や化学工場などで副成する塩で食用には使われない。
 塩の特性は、上述のような結晶化の工程で決まるが、せんごうによる結晶化の前のプロセスとして、かん水を得る手段(採かん)によって分類する方法がある。日本では雨が多く採かんが大変だったので、長い技術改善の歴史があり、藻塩焼きから、揚浜塩田、入浜塩田、流下式塩田、枝条架濃縮、加圧式海水直煮、などを経て現在の膜濃縮に変わってきている。大正時代(揚浜、入浜)は塩化ナトリウム70%水準であったが、次第に高純度化が進められ、現在は通常97%以上となっている。現在の製塩工程の概要は図1に示した。
図1膜法による日本の製塩

海水 → かん水 ← 海水
膜法濃縮に変わった後、高純度の塩は塩化ナトリウムだけの「化学塩」であり、健康に良くない、あるいは味が悪いなどの宣伝とともに、苦汁を添加した塩を「自然塩」として販売することが広く行われるようになった。膜法の塩を「化学塩」というのは誤りである。膜法の濃縮にはイオン交換膜が使われ、この構造を図2に示した。この膜は塩分だけが透過する構造になっている

図2イオン交換膜のモデル

が、膜はイオン交換基を持つ静電膜であり、電荷をもつイオンを透過する特性を持ってはいるが反応を伴うものではなく、セルロイドをこすって紙片を吸い付けるのと同じ原理と考えればよい。化学反応を伴う製塩は副産塩以外にはない。
健康の問題と味の問題は後述する。

3.塩の性質を決める要素
食用としての塩は、使いやすさと味によって選択されているが、その特性を決めるのは次のような条件で分類されるものである。結晶形、粒径、組成、乾燥の程度、
添加物および保存時の外的条件が、どのように組み合わせられているかで特性が決まる。これらの組み合わせがすべて製品化されているわけではない。これらがどのような特性を示すかは以下記述を参考とされたい。例えば食塩は、立方晶、中粒、精製級、乾燥、無添加の状態である。

表1 塩の基本的性質を決める要因
結晶形 粒径 組成 乾燥 添加物 その他
立方晶 粗大粒(>5mm) 精製級 未乾燥 無添加 温度
凝集晶 粗粒(1.2-5mm) 並塩級 乾燥 炭マ 荷重
フレーク 大粒(0.45-1.2mm) にがりリッチ 低温焼塩 シリカ 蔵置
粉砕 中粒(0.3-0.45mm) Mgリッチ 高温焼塩 その他 外気
造粒 微粒(0.1-0.3mm) Kリッチ     固結
  粉末(<0.1mm)        

4.結晶の形と粒径

図3 結晶の種類

立方晶:真空式、加圧式のせんごうでできる普通のサイコロ状の塩、分離機などで一部破壊されている。日本で市販されている塩の99%は立方晶、粒状である。見かけ密度が大きく通常1.1〜1.4g/ml、一般に結晶が硬く、通常塩化ナトリウム97%以上である。食塩、並塩、白塩、精製塩、特級塩、瀬戸のほんじお、味  塩、いそしお、赤穂あらなみ、エンリッチ、など

凝集晶:平釜でできる塩、小さい粒が集まり不定形。結晶は柔らかく、立方晶に比較して溶けやすい。結晶間ににがり分を含むため、洗浄しにくく分離機による脱水も十分行われないので、水分、にがり分が多く、純度は立方晶の塩よりやや低い傾向がある。かさ密度は立方晶に比較してやや小さく、通常0.9〜1.1g/mlであり、食塩に比較して30%程度嵩張る。天塩、伯方の塩、シママースなど

フレーク:平釜の表面結晶の塩で薄片状、あらしお、フルードセルなどといわれることがある。結晶は壊れやすい。極めて溶けやすく、付着しやすいので、調理用などの高級品とされる。あらしお、瀬戸のあらしお、赤穂しぶき、フルードセル伯方の塩、昔塩赤ラベル、ふんわりいそ塩など家庭用小物が多く発売されている。フレーク微粒は業務用だけだが、かさ密度が更に大きく、分散性、溶解性が求められる乳製品、ハムなどの肉加工、などの高級品に使用される。例えばキングソルトライト。フレーク塩はかさ密度が小さく嵩張るので、見掛けで使用したり、計量スプーンなどを使うと、立方晶に比較して塩の量が少なく、家庭用では通常の塩の2倍をメドに使わなければ、塩味が薄くなったり、漬け  物で塩分不足をおこす。

粉砕:家庭用小物では販売されていない。25kg以上の単位で販売されている。塩事業センターから「粉砕塩」という銘柄で販売されているのは、メキシコまたはオーストラリアから輸入された天日塩を0.5〜1.5mmの粒径に粉砕したもの。泥などの不純物があるから、食品の荒加工や道路融雪などに使われる。
この他、食品加工用に製塩工場で立方晶のせんごう塩をユーザー要望に応じて粉砕し、粒度選別した塩が、特注品として多量に販売されている。食品の中に均一に塩を分散させたい場合,速やかに溶かしたい場合などに使われる。バター、チーズ、水産加工品、ふりかけなどの高級品には汎用されているようである。ダイヤソルト微粒、さぬき塩微粒など

造粒:一般的にはアーモンド状、平板状に成形した数mm以上の粒径で販売される。ほとんど業務用で、家庭用小物は市販されていない。溶けにくいので、長く塩の効果を持続したい場合に使われる。水産物の塩蔵、道路融雪などに使われる。ナクルロード、造粒シルバーソルトなどがある。

粒径:粒径の大小で使い勝手は大きく変わる。代表的性質を表2に示す。大手の膜法製塩メーカーは、微粒塩から大粒塩までの品揃えをしているが、多くは業務用である。2mm以上の粗粒塩は輸入塩の粉砕塩になる。ときには大粒径と小粒径を組み合わせて、速効性と持続性の両方を期待する場合もある。

 かさ密度は立方晶の乾燥塩では図4に示すように0.5mmまでは重くなる傾向になるが、フレーク塩ではそれほど大きな差がでない。

表2 粒径の大小による物性の違い
 
分散均一性 悪い 良好
溶け易さ 遅い 早い
付着性 くっつきにくい くっつきやすい
ホッパー 流動しやすい 詰まりやすい
固結 固まりにくい 固まりやすい

家庭用などで調味する場合は、見掛けの一つまみ、スプーン1杯などが基準となり、実質は容積で計られているため、かさ密度の違う塩では間違いやすく、塩自体の味の特性と誤解される例が多い。スプーン1杯は塩の種類によって約2倍の差があることはよく理解されていない。また塩の水分は常に吸湿、放湿を繰り返しており、水分が増加すると塩は嵩張ってくる。例えば食塩は生産直後の乾燥状態でかさ密度1.4g/mlだが、ユーザー手元で使用するときは0.2%程度の水分になり、かさ密度は1.2g/ml程度になってしまう。

5.組成
 家庭用小物としては、中粒径のものが主体で、塩化ナトリウムとして99.7%以上の精製塩級、99%以上の食塩級、95%以上の並塩級、95%以下の苦汁添加塩級がある。このランク区分は基本的に分離機の脱水の程度、乾燥の有無によって決まる。採かんが膜法か塩田かは関係がない。水分(にがり分)をどこまで残すかで決まる。大正時代まで塩化ナトリウム70%台だったのは、煮詰め過程の石膏の分離が不十分だったこと、塩の歩留まりをよくするために煮詰めを進めすぎていたこと、分離機がなく自然脱水だったことなどによる。昔は「あく抜き塩」といって、高級料理店では塩を溶かして煮立て、卵の殻を入れてにがり分を除き、結晶した塩を皿で受けて採る方法が秘伝としてあった。この操作はすでに現在のフレーク塩(あらしお)であらかじめ行われていると考えて良い。現在は操作が改善されてむしろ95%以下の塩を作るには、標準操作ではできないから、分離された苦汁を改めて添加する方法がとられる。また現在市販されている苦汁添加塩には、塩に苦汁を添加するか、溶解後再度せんごうして苦汁を添加したものが多い。しかし日本のように苦汁の入った塩を珍重するのは日本だけで他国にはその例はあまりない。これは昭和50年代からの苦汁添加塩業者の宣伝の成果であろう。
各塩種についての分析例を示す。現在国内で市販されている塩種は1000種以上あり、輸入製品を加えると1500種以上になると思われ、それらを網羅して記載することはできない。塩の商品カタログのようなものがあると消費者には便利だがそれも現在ない。表3は乾物基準%(水分以外を100%として表示)で示しているが、高純度塩と苦汁添加塩の組成の差は小さく、栄養的見地、溶解したときの味の面からの差は無視できる程度である。多カリ、多マグ塩はかなり特徴的になる。しかし苦汁添加塩の場合、結晶の表面ににがり分が付着しているから、物性(使い勝手)差が大きく、直接固体でなめたときの味も変わる。物性の差として大きいのはサラサラ性が低下してべたつくこと、そのため分散性が悪い、付着性がよいなどである。

表3 塩の組成の例(乾物基準表示)

    NaCl KCl Mg Ca 不溶解分 水分
  精製塩 99.9 0.00 0.00 0.00 0.00 0.0
高純度塩 食塩 99.7 0.30 0.02 0.02 0.00 0.1
  アルプスの塩 98.7 0.10 0.00 0.00 0.00 0.0
  イタリア岩塩 99.9 0.00 0.00 0.02 0.00 0.0
並塩 99.2 0.30 0.08 0.06 0.00 1.6
輸入天日塩 97.3 0.04 0.02 0.05 0.01 2.4
にがり 天塩 98.1 0.04 0.47 0.05 0.00 6.1
添加塩              
  いそしお 97.5 0.21 0.31 0.22 0.00 3.2
  伯方の塩 98.9 0.06 0.07 0.08 0.00 3.9
  万能極楽塩 98.3 0.27 0.03 0.05   0.3
  海の精 94.5 0.38 0.61 0.25   9.4
  瀬戸のあらしお 99.2 0.10 0.08 0.06 0.00 8.1
  ゲランドの塩 96.2 0.30 0.58 0.16 0.08 9.8
多カリ 瀬戸のほんじお 88.2 9.41 0.37 0.18 0.00 5.2
多マグ              
低納塩 64 15 1.5 0.0 0.0 5
  ライトソルト 45.7 53.3 0.0 0.03 0.0 0.1

※:数値は固結防止剤の量
※※:固結防止剤として炭酸マグネシウムを添加した製品もある。



<6.乾燥と物性(使い勝手)
塩の結晶、全体の99%以上を占める。溶けたときの味はこの本体で決まる。

 製品としての塩は、分離機から出てそのままの湿った塩と、乾燥機を通した乾燥塩がある。また乾燥温度を更に上げた焼き塩があり、乾燥の程度で塩の特性が大きく変わってくる。塩の水分は大部分が結晶の表面ににがり分として付着しており、
ごく一部は結晶の中に液胞として存在する。また微粒塩、凝集晶、フレーク塩は結晶間の空隙ににがり分を抱え込んだ間隙水としてのにがり分がある。
 乾燥した塩の特徴は、サラサラして流動性がよい、かさ密度が大きい、付着性がやや悪い、などの特徴があり、ホッパーなどで操作する大量処理に都合がよいし、塩を分散させるにも具合がよい。計量もしやすい。食品加工などで大量の塩を扱うには乾燥塩が使いやすい。家庭で使うにも例えば魚の振り塩をするには、湿った塩ならば一度軽く焼いて水分を飛ばして使う方が扱いやすい。しかし漬け物などではしばしば付着性が悪く、底に沈んでしまうなどの苦情がある。
 湿った塩は流動性が悪い、かさ密度が大きい、計量しにくい、などの問題がある。食塩、特級塩、精製塩などに比較し、並塩、白塩は価格が安いために使われているケースが多い。苦汁添加塩は通常湿った状態で販売される。これは苦汁が入っていることを強調する目的がある。苦汁添加塩を使うときは調理用ならば一度軽く水分を飛ばした法が使いやすい。
 焼き塩は、200℃以上の高温で加熱した塩で、表面のにがり分は塩化マグネシウムから塩基性塩化マグネシウムに変わり、不溶性となって固結防止効果が出てくるから、サラサラした状態を長く保つことができる。更に高温で焼き塩を作ったものは、加熱により内部の液胞が破裂して塩が粉砕され微粒の焼き塩になる。いずれも塩を溶かしたとき、pHはアルカリ性になるが、特に食品衛生上の問題はない。

7.味の良い塩
 精製塩を舐めるとピリッと塩からいが、苦汁の入った塩を舐めるとソフトな感じになる。図5に示すように苦汁は結晶表面に付着しており、これを最初に舐めるため、そのマグネシウム塩の苦さで塩からさを押さえる。食材の大部分は塩を溶かして使うが、溶かして食材に入ったとき、マグネシウム塩、カリウム塩などが10%以下で判別するのは通常困難である。表2にも示したように、通常の苦汁添加塩では、マグネシウムが多くても0.5%までであり、この量では食材に添加し溶けると通常判らない。しかし直接なめて丸みのある塩を使うと、その食品の仕上がりも丸みのあるものになると考えるのが一般的である。これは塩の表面だけの味が塩そのものの味と思うための誤解である。固体で舐めるのに近い食材、例えば天ぷらの塩のようなケースでは差が出る。組成については個人差が大きく、マグネシウム、カリウムなどの添加は好まない人も多い。味の問題については、東京都消費生活総合センター「いろいろな塩−塩とミネラルとキャッチフレーズ」(平成10年)は客観評価として参考となろう。
塩味の決め手は、塩が適量はいっていること、食品の加工段階で使いやすく、食品にあった分散性、溶解性、サラサラ性、などを求めて、結晶の形、粒径、乾燥のレベル、など表1に示すような特性を検討するのが基本である。要するに食品との相性が大切である。
カリウムの入った塩では、一部減塩用としてカリウムが非常に多く入ったものが出ているが、ピリから味と苦みが強い。この悪味を救うためにアミノ酸、マグネシウム塩などを入れているが、塩に比べるとかなり味の面で劣る。しかし最近では、アミノ酸と少量のカリウムの共存はうま味を増すという意見があり、カリウムとして5%程度含む「瀬戸のほんじお」「低A塩」のような塩も出ている。
グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸などのうま味調味料を添加した「あじ塩」系の塩、胡椒、ゴマ、オニオン、しそ、その他多くの食品、香辛料を添加した塩があるが、多くはテーブルソルト用として販売されている。

8.健康によい塩
 精製された塩が体に悪いという宣伝がある。しかし表2に示す組成からも判るように、水分を除いて考えると、高純度塩と苦汁添加塩のミネラル成分の差は極めて小さく、製造プロセスも苦汁をどこまで切るか、乾燥するか否かのような差しかない。生理効果の差を期待することはできない。ときにはマスコミまでこのような宣伝に振り回されて誤解を拡大することがある。精製した塩が体に悪いという根拠は全くないし、論理的にもあり得ない。
 膜法(イオン交換膜)による濃縮は塩田に比較して健康に良くないという誤解をもっている人がいる。しかしこれは図2に示すように約10Aの細孔をもつ静電荷膜で塩分を濾過、濃縮する方法であり、農薬、洗剤、ダイオキシンなどの化学的汚染物質や細菌類が混入する危険が極めて少なくなり、安全性では格段に優れたものになっているし、化学的処理ではなく反応生成物などは全くない。塩田法に比較して安全性が最大の特徴ともいえる。しかも膜法の塩については、専売制廃止後、衛生面チェックのための日本塩工業会のガイドライン(表4)があり安全基準もしっかりしている。恐らく安全性の視点からは日本の膜法の塩は世界でもっとも優れている。

表4 塩の品質に関するガイドライン(日本塩工業会,平成8年4月)
項目 内容 注記
塩化ナトリウム 別途製品規格による  
水分 別途製品規格による  
粒径 別途製品規格による  
不溶解分 0.00 % 以下 50℃6温水溶解
マグネシウム 0.15 % 以下 0.15%以上の製品は成分表示する
カリウム 0.25 % 以下 0.25%以上の製品は成分表示する
無機臭化物 0.15 % 以下 有機臭化物は存在しないので表記せず
重金属 10 ppm 以下  
ヒ素 検出せず 0.1ppm 以下
異物 限度内 注記事項に準拠
pH 5 〜 11  
生菌数 陰性 300ケ/g以下
大腸菌 陰性 30ケ/g以下
添加物 表記する 食品衛生法に準拠
物性 潮解性,固結性あり  
包装 食品衛生法に準拠  

[塩の品質に関するガイドラインは、平成13年4月からより厳しいガイドラインに移行し、「食用塩の安全衛生ガイドライン」となりました。その内容は「その4」に紹介されています]

この他、健康に良いという歌い文句の塩として、
高血圧のための塩化カリウム入りの塩:ハイソフト、パンソルト、ライトソルト、などがある。高血圧と塩の関係については永らく医学界で論争が続いてきた。しかし軽度の減塩がほとんど効果がなく、大多数のナトリウム非感受性の人に減塩を強調することがあまり意味のないことを考慮しなくてはならない。
 ミネラルバランスがよいとされる苦汁添加塩:極めて多種類販売されている。苦汁の主成分はマグネシウムだが、表3に代表的組成を示したようにマグネシウムは多くても0.5%以下しか含まれない。マグネシウムは健康維持に非常に重要な元素で、その1日必要摂取量は300mgとされている。図6に示すように日本人の平均塩摂取量は成人1人当たり1日約12gだが、家庭の調理用の塩は1日使用量が1.5g程度で、8mgにしかならず、塩からミネラルを供給することはほとんど期待できない。カリウム、マグネシウム、カルシウムなどの比較的多量に要求するミネラルを塩に添加しても効用はほとんどない。塩からミネラルを補給しようとしても意味のある量を摂るにはあまりにも多くの塩を必要とする。むしろ健康的な食材の選択が遥かに重要である。健康によい塩というキャッチフレーズは疑ってみた方がよい。基本は、おいしく、安心して食べられる塩が最高と思うのだが如何だろうか。

厚生省国民栄養調査(1997)

 微量成分または食品を添加した塩:甲状腺障害防止用のヨード添加塩は内陸部の甲状腺障害防止に大きな効用があり、法制化されている国もある。日本では販売されてないが、これは日本人が海産物を多く摂るのでヨード不足はほとんどないためである。このほかフッ素、亜鉛などが添加されている塩が外国で販売されている。日本でも鉄塩を添加した塩もあるが、微量が要求される成分については、塩の毎日の摂取量が安定しているので有効に働く場合がある。
 専売制がなくなり、原則自由になったものの、食品衛生の面からのチェック機構も確立されておらず、規格面も不備なままの自由化となっており、食品衛生上の問題、表示の問題などは今後業界の重要な課題となる。