トップページ 塩の情報室 目次
 
選び方、使い方 選び方、使い方
塩味の常識
(2010記載)


塩のソムリエに
チャレンジ(2010記載)


高価な塩が
よい塩ではない


安全な塩を簡単に
見分ける方法


塩味の特徴

塩の上手な選び方

ユーザーのための
塩学入門

塩の賞味期限

漬物に使う塩

駐車場の凍結防止
ユーザーのための塩学入門 1 2 3 4
 
■その3 使いやすさを求める■
日本海水学会誌第54巻第3号(2000)講座

1.まえがき
 「その1」で概要1)、「その2」では分析結果から何が判るかと題して主に組成に関することを解説2)した。「その3」は使いやすさを求めてと題して、塩の物性に関することについて説明したい。塩は使う場面によって適切な塩がある。家庭用ではせいぜい数種の塩で使い分けることになるから、生活パターンを考えて広い範囲で応用できる塩を選ぶことになるが、業務用例えば食品加工、工業用、など大口ユーザーでは最も適した塩を選択して特定用途に使うことになる。料理や製品の仕上がりの良さに塩が関係するのは、主に使い勝手の良さに原因する場合が多い。使い勝手は使い慣れの問題も大きいが、塩自体がもつ特性に支配される所も大きい。本来は製品名を具体的にあげて説明するのがよいが、あまりにも種類が多く、ここでは一般論として説明する。ここの製品特徴に関連する塩の選び方についてはその4に書きたい。

2.使いやすさを決める要素
 使いやすさを決める要素として、大きな項目を列記すると
 1)サラサラしているか、しっとりしているか
 2)かさばり具合
 3)くっつきやすさ
 4)溶けやすいか
 5)固まりやすいか
 6)異物はないか、衛生的に安心か
 7)塩を使いやすくする添加物があるか
 8)適切な包装形態か
というような項目が上げられるだろう。このような性質を決めるのは、組成、結晶形、粒径、乾燥度合、添加物などで決まる(ユーザーのための塩学入門その1参照)。

3.サラサラ塩とベタベタ塩
 サラサラした塩は振り塩をするにも、計量するにも、工場のホッパーで流すにも都合が良く使いやすい。しかし水分や苦汁分の多いベタベタの塩が、あらしお、粗塩、自然塩、昔の塩、などを宣伝用語にして広く販売され、かなり広くベタベタ塩が良いという概念ができている。苦汁が入ると自然に近く、昔タイプで、味が良く、健康に良いという宣伝が浸透してきている。昔の苦汁分離の悪いベタベタの塩は、プロの料理人は使う前にから煎りしてサラサラにして使ったが、現在ベタベタ塩の宣伝が行き渡ったので、苦汁入りや鱗片状結晶のあらしおタイプで、さらに乾燥してサラサラにして使いやすくした塩は、苦汁が入っているとか自然とかいうイメージに合わず、買ってもらえないという状況にあり製品数は少ない。ベタベタした塩が都合がよいのは、盛り塩、魚のほうろく焼き、漬け物など、限られた用途だけである。
 塩のサラサラ性を決める要素を表2に示した。水分値が最大の決定要素となる。結晶形、粒径、苦汁分、固結防止剤などは副次的要素である。
 サラサラ性の目安は一定量の塩を盛り塩にして、その角度や高さ(安息角)で判別すると数値化できる(図1)。塩の安息角は30°から70°の広い範囲にあり、食卓塩で30〜40°、湿った微粒塩では70°位になる。
 ホッパーのような塩供給装置は最低限その安息角以上の下部コーンの角度をもたせなければならないが、湿った塩では安息角よりかなり大きくしても器壁に付着してブリッジを造り塩が流れないから、ホッパーでの扱いは難しい。ホッパーで扱ったり、計量装置を通る場合はサラサラした乾燥塩を使うことを推奨したい。
                   
表1 サラサラ性を決めるもの
サラサラ   ベタベタ
乾燥している >> 水分が多い
苦汁分が少ない 苦汁分が多い
粒状 立方晶 フレーク
粒が大きい 粒が小さい
固結防止剤入り 固結防止剤なし

図1.塩による安息角の変化

高温で乾燥すると焼き塩になる。焼き塩では低温焼き塩は結晶の形を保っているが、高温焼き塩は結晶内に巻き込まれた液(液泡)が破裂して微粒になる。焼き塩では苦汁分の塩化マグネシウムは塩基性塩化マグネシウムに変化して不溶性となり、湿気が来にくい。高温で焼いたものほどサラサラ性を永く保つ。
 苦汁分が多いと、空気中の湿気を吸って(潮解)、次第にサラサラ性が悪くなる。精製塩や食塩のレベルの苦汁分でも、製造直後から水分を吸うから、製造直後水分ゼロでも、流通過程や保管中に水分0.2%程度まで上昇し、製品が古くなるほどサラサラ性は低下する。苦汁分の多い塩ではさらに吸湿性が激しくなり、保管中に湿気を吸いサラサラ性が低下する。塩は低温になるとサラサラ性が一般に低下する。これは露点になることで吸湿する影響が大きいが、粘性の増加も効いている。高温では乾燥側に働き、粘性も低下してサラサラ性は増加する。

4.かさばり具合(見かけ密度)
 サラサラ性と関係深いものに「かさばり具合」がある。見かけ密度としてg/cm3 で表す。家庭の調理などでは見かけ、スプーン計量、一掴みなど、容積基準で使われるので、見かけ密度が違うと塩からくなりすぎたり、漬け物が腐ったりする。いくつかの塩で見かけ密度がどのくらい違うかを図2に示したが、塩の種類でかさ密度は約2倍の変化があり、塩種を変えたときは注意が必要となる。
 かさばり具合を決める要素は、水分、結晶形の影響が大きい。水分が増加し、結晶形が球形からずれるにつれて嵩張ってくる。乾燥塩でも保管中の吸湿で嵩張り方は大きくなる。
また温度が高くなるとかさ密度はやや大きい方にずれる。塩容器やホッパーなどを検討するときは、水分の増加、温度の上昇などを考慮して、大きさを決めなければならない。

図2.塩のかさ密度
5.くっつきやすさ(付着性)
 漬け物を漬けるときに材料となじまず塩が樽の底に沈む、天ぷらを付け塩で食べるときにくっつかない、ピーナッツなどの加工で塩の付きが悪い、などくっつきやすさも使い勝手に影響する例が多い。
 塩が材料にくっつくのは、塩が濡れて溶解し表面張力で付くものと、表面摩擦でつくものと、材料形状で乗っかった形になるものなどがある。くっつく対象によって付き方は大きく異なるが、塩サイドだけから見るとくっつきやすい性質は次の性質が影響する
比表面積が大きい程良く付く。
   粒が小さいほど付きやすい。
   立方晶よりフレーク状のあらしお系がよく付く。
水分や苦汁分が多いとくっつきやすい。

6.溶けやすさ(溶解性)
 塩が溶ける速さは、溶解する水の温度、水の量、溶解装置、撹拌条件で変わる。塩の側から見ると、比表面積が大きいほど早く溶ける。
溶けやすさの要因を列記すると
塩の粒径が小さいほど早く溶ける:比表面積は粒径の逆数に比例する。
立方晶よりフレーク塩(あらしお系)が早く溶ける。
  ただし粒径が小さくなるに従って差は小さくなる。
  0.1mm以下の粒径では影響はほとんどない。
柔らかい塩は溶けやすい。
  平釜で作ったフレーク塩や凝集晶の塩は早く溶ける。
  岩塩のような硬い塩は最も溶けにくい。
  立方晶の普通の塩はその中間。

溶解速度は塩の性質以上に溶かし方で変わる。概念的には表2に示すように、水の温度、撹拌条件、粒径等が支配する。しかし表2は、バッチで撹拌溶解するケースを前提に説明しているが、大きな装置で大量に溶かす場合は、上昇流で飽和塩水を作るケースが多く、装置によっては小さい粒径では装置内の水の通りが悪く、偏流を起こすので、粒径が大きくなければ溶けにくいケースが出てくる。溶解装置や溶解方法との関係を見て決める必要がある。
表2 塩の溶ける速さの目安
条件 基準 変化条件 変化量
温度 冷水(10℃) 熱水(75℃) 2倍
撹拌 静かに(Re=5) 強く(Re=50) 3倍
水/塩比 10 20 2倍
粒径 0.4mm 0.2mm 2倍
塩の硬さ 立方晶 凝集晶 増加


7.固まりやすさ(固結性)
 塩は外気の湿度の変化に応じて吸湿したり乾燥したりする。吸湿したときは表面に飽和塩水の液膜ができ、乾燥すると液膜が固体化して塩の粒を接着する(図3)。

図3.塩はこうして固まる

通常、温度と湿度の変化があるところに保管されているから、塩は必ず固まる。温度、湿度が高いと空気中の絶対水分値も大きくなり、固結の進み方も激しい。夏と湿気の多いところの保管は塩には禁物になる。
 しかし固結の進み方を少なくするために、多くの検討もされてきた。次のような塩は固まりにくい。この反対が固まりにくくする方法であり、ユーザーの塩に対する要求の中で対応できるものを選択して対処するとかなり防止できる。
粒径が大きい:微粒塩は非常に固まりやすい。
微粒が少ない
乾燥している
マグネシウムが0.05〜0.1%含んでいる。多すぎても少なすぎても具合が悪い。
精製塩級の高純度でない。精製塩は極めて固まりやすい。
圧力がかかっていない。包装袋を高く積み上げない。  
低温で包装されている。
高温、多湿の所に保管されていない。夏の塩は固まりやすい。
長期保管されていない。
氷点下の極低温にさらされていない。−2℃位でNaCl・2H2Oに変化し、結晶形変化の時点で硬く固まる。
濡れる場所に置かれたことがない。ぬれは塩の最大の敵
固結防止剤が入っている
固結防止対応の袋に入っている。まだあまり普及していない。
湿った塩や苦汁入りの塩などは、サラサラ性がなく使いにくいからしばしば乾煎りして使われるが、濡れた塩をそのまま乾燥すると固まりが強くなる。十分な撹拌をしながら乾煎りすること、乾煎りした後軽く砕いてやることなどの注意が必要になる。
 なお固結防止剤としては、日本では炭酸マグネシウムが一般的に使われる。外国塩ではフェロシアンかカリウムを使った例があるが、日本では食品添加物規則で禁止されている。炭酸マグネシウムは水に不溶で、溶かしたとき濁るが衛生上は問題ない。家庭での固結防止にはいろいろ工夫がされてきたが、焼き塩にするか、食卓用塩では焼き米を入れて固まりを防止することもしばしば行われる。

8.異物はないか、衛生的か
 最近の日本人の衛生感覚からすると異物は大変嫌われる。外国のメーカーから考えると日本人の潔癖性は異常に映る場合もある。そのため日本の大手塩メーカーは衛生上の管理が極めて厳しい。昔は塩の中に藁くずなどあるのが普通だった。外国の天日塩では今もそのような感覚であり、国内の一部の小メーカーには異物に無神経なところもある。日本の塩は大変異物の管理が厳しいにも関わらず、それでも製品クレームの中で異物混入の問題が多いので、外国の品質管理状況では日本でユーザーに受け入れられるか懸念がある。。
 衛生管理では、しばしば天日塩中の好塩菌が問題にされる(ユーザーのための塩学入門その2参照)。しかし好塩菌は漬け物、味噌、その他塩蔵食品などに多く見られるもので、多くは悪玉の菌ではない。もちろんサルモネラ菌など耐塩性の悪玉菌もあるが、通常は体内の抗菌機能で十分対応できているようで、塩の菌類が健康を害した例はあまり聞くことはない。ただし水産加工品などでは、生体の抗菌作用が働かないので、菌の増殖などで悪影響が出る例があるという話はある。
 いずれにせよ、異物、衛生管理などのことを問題にするなら、国内大手製塩メーカーの塩を選択するのが安全といえる。

9.塩を使いやすくする添加物
 古くからゴマ塩、アジシオ、など、家庭で塩を使いやすくするための添加物が入った塩が販売されてきた。最近は競争も激しく多種類の添加物が入った塩が販売されている。固結防止剤、苦汁、カリウム塩以外の添加物を類別すると、
うまみ剤添加: アジシオに代表されるグルタミン酸ナトリウム、イノシン酸、各種のだしなどのうまみ料を添加した塩で、主として食卓用に使用される。
食品および
香辛料添加:
ごま塩、オニオンソルト、ガーリックソルト、胡椒、セロリ、昆布、梅干し、シソ(ゆかり)、海苔、各種ハーブ、各種香辛料及びこれらの組み合わせ 
栄養剤添加: ビタミン、各種ミネラル、各種鉄分、各種カルシウム塩、米糠エキス、特殊な蛋白、など  
個別用途の塩: ステーキ用、焼き肉用、焼き魚用、お茶漬け用、ピザ用など個々の料理専用をうたった塩も販売されている。
食用以外で専用の塩として販売されている例としては、浴用、塩マッサージ用、美顔用などエステ系のものが多い。また人工海水として、観賞魚や活魚などを対象とした塩、葬祭用、融雪用をうたったものもある。

10.適切な包装形態か
 塩は次のような包装、輸送形態が使われている。5kg以下は外箱包装があり、いずれもパレット輸送されることが多い。大手メーカーでは、大口需要者にはメーカーからユーザーまで一貫して同一パレットで輸送する体制がとられて、輸送の合理化、包装袋破損の防止などの対策がとられている。
 購入単位は、固結が起こらないように、使う量に合わせて3ヶ月以内くらいで使う量の単位がよい。ただし微粒塩や精製した塩では固まりやすいから、ユーザー手元の在庫期間をさらに短くしないと使いにくくなる。フレコン袋については、若干経費がかかるが、ユーザー要望で半端な数量で包装して、ユーザーでの計量の手間を省くケースも増加している。
 日本では、小袋包装はポリエチレン袋、大袋はクラフト紙袋が主流であり、ポリエチレン大袋は特殊な場合しか使われない。輸入塩はポリエチレン袋が主体になっている。これはポリエチレン袋が滑りやすく荷崩れの懸念があること、使用後の廃棄物処理がやっかいなこと、等から敬遠されている。大袋については従来ミシン縫いがイージーオープン形式に変わり、解包時の縫い糸くずなどの問題は少なくなってきている。
表3 塩の包装形態
包装単位 容器形態 主な用途
350g以下 瓶入り(ガラス、ペット) 食卓用
200〜800g ミルクカートン(防水厚紙容器) 調理用及び食卓用
  パウチ(プラスチックの立て型)  
1kg以下 ポリエチレン袋 一般用
5〜25kg クラフト紙 大口家庭用、業務用

25〜50kg

ポリエチレン袋  
  ポリエチレンクロス袋 業務用
500〜1000kg フレコン 業務用
4〜10ton トラック積み散塩 業務用
100ton以上 船積み散塩 特別大口の業務用

11.保存及び賞味期限
 塩は極めて安定で、腐敗などの懸念もないから、汚れの懸念がなければ、永久に使えると考えてよく、商品にも賞味期限は表示されない。ただし食品などを添加した塩では、塩以外の添加物の賞味期限で決まる。
 ただし前述のように固結などの問題があるから、保管すれば必ず使い勝手は悪くなる。保管に当たっては「7.固まりやすさ」で指摘した注意事項を守って保管し、長期保管を避けるようにする必要がある。

12.結び
 家庭用塩はせいぜい数種類の塩を何にでも使う。これが絶対良いというものはないが、塩自体は味の差が少なく、広く使えるものを選ぶのが利口だろう。従来、宣伝文句はかなり激しく製品間の格差を強調しているが、それほど大きいものではない。特に味やミネラル、健康などを強調したものには過大広告が多い。むしろ、我が家の食生活を考えて、容器包装などを含めて、使いやすい塩を選択するのがよい。あえてアドバイスするなら、使い慣れた塩が一番失敗が少ないといえる。
 業務用の塩は、特定製品に使うものであり、しっかりと塩種を選択すべきである。塩の選択は使いやすさだけではないが、使いやすい塩が製品仕上がりや工程管理を容易にすることは間違いない。
back next
up