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塩づくりの話 塩づくりの話
立釜と平釜

塩粒からの推理
1.4 立釜と平釜
 2002年塩専売制が実質的になくなり完全に塩の製造販売輸入が自由化され、自由競争市場の商品になったが、塩の品質、安全性、などのルールは何もない状態であった。これから勝手に事業ができるということで夢を膨らませて新規参入する事業者が激増した。塩の製造、輸入、販売は小規模でも容易に参入できるリスクの少ない事業であった。投下資本が少ない、特殊な技術はいらない、腐らないから製品管理が容易で腐敗による廃棄がない、原料海水は無尽蔵、などなどのメリットはあるが、小規模で初期投資が少なければコストは高い。誇大な宣伝に流されると消費者の人気に限界が生ずる。消費者に信頼される商品表示、宣伝にしなければならないとの想いから、食用塩公正競争規約を作ってウソのない表示にしようという活動が起きた。例えば、定義のない自然塩という用語を使うことで優れた塩であるかのように認識させるようなことが広く行われる状況にあったので、このようなイメージキャンペーンから客観性のある表示にすべきであるという意見に従い、客観性がある製造方法を記載することとなった。
 濃縮(採かん)についてはイオン膜、天日、が提案され、煮つめ(煎熬)では立釜、平釜となった。 立釜は2005年当時密閉釜は外側加熱型の完全混合の結晶缶を使う多重効用缶(真空式)で蒸気量の3〜4倍の蒸発が可能である。粒径0.2〜1mmの粒が揃ったサイコロ状の結晶が出てくる。建設費が高く、大量生産に適している。操作に技術を要するが、もっともエネルギー消費が少なく安定した商品を作る方法であり、国内塩生産の大部分はこの方法である。
これに対して平釜(開放釜)はフライパン状の平鍋を大きくした形で、建設費などの初期投資は少なくてよいが、多くは直火焚きで熱の有効利用率は低く多量の燃料を必要とする。小さな結晶が不揃いに団子状になった凝集晶をつくり、溶けやすく柔らかで食材とのなじみがよく、「にがり」を含ませやすく、昔風の塩作りとして歓迎された。小規模生産で生産量は少ないが、高度な技術がなくても塩作りが可能である。
図1.4.1 外側加熱蒸発缶 図1.4.1 外側加熱蒸発缶
蒸発部と加熱部が分かれている。多くは多重効用蒸発缶として使う。伝熱に極めて有利であり、建設コストの低減が可能。
液流れ方向は左図と反対(正循環)もある。尾方昇“製塩の工学第3巻”、日本塩工業会(1998)
   規約上の定義は密閉釜が立釜、開放釜(大気圧の釜)が平釜である。立釜は縦長の外側加熱缶、平釜は鍋型の平たい釜をイメージすることができるので消費者に理解されやすいと考えたもので、立釜は新しく作った造語である。
 
 
図1.4.2 平釜 図1.4.2 平釜
1.平釜 2.かん水予熱釜
3.さな 4.焚き口 5.灰出し口
6.火潜り 7.煙道
永井彰一郎他“海水化学”日刊工業新聞社(1963)
   しかしその後第3次塩業整備(1960)まで使われた平釜に近い塩ができる不完全混合方式の密閉釜(標準型、蒸気利用型、またはその類似型)がエネルギー効率の改善などを目的として復活してきた。これらの煮詰め釜は、平釜方式に似た結晶ができるから、釜形式で明確な品質差を表すことはできなくなった。しかし、今も立釜塩の大部分は外側加熱缶でありサイコロ状の塩大部分が外側加熱缶であることに変わりはない。

 また外側加熱型の蒸発缶を用いて粒径を小さくかなり不揃いにすることもできる。これは塩類濃度が高い状態の缶内に飽和かん水を入れると微粒の結晶が多数発生して微結晶の成長が悪くなる現象を利用する。現在、意識的に外側加熱結晶缶で微粒を作ることはメリットが認められず、行われていないようである。
 
図1.4.3 蒸気利用式蒸発缶の概略図
図1.4.3 蒸気利用式蒸発缶の概略図
永井彰一郎他“海水化学”日刊工業新聞社(1963)
 
図1.4.4 標準型蒸発缶(カランドリア型蒸発缶) 図1.4.4 標準型蒸発缶(カランドリア型蒸発缶)
1.モーター 4.蒸気出口
11.かん水 15.加熱室 17.プロペラ
20.苦汁排出管・集塩器
永井彰一郎他“海水化学”日刊工業新聞社(1963)
 
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