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■その2 分析結果から何が判るか■
日本海水学会誌第53巻6号(1999)講座

1.まえがき
 前回「ユーザーのための塩学入門 その1」1)で塩学概要を紹介させていただいた。今回はその続編として分析結果の見方について紹介する。塩分析の公定法としては、「塩試験方法」((財)塩事業センター、平成9年)があるし、解説として「塩の分析と物性測定」2)(日本海水学会、ソルト・サイエンス研究財団、平成4年)があるが、分析法だけでその結果をどう見るかは書かれていない。塩の分析表は、品質調査書、検査報告書、品質保証書、カタログ、など様々なところに書かれたり、添付されたりしている。また最近やっと塩の分析結果が公表される例が出てきた3)4)。分析結果からどのようなことがわかるでしょうか。

2.分析機関
 分析結果には、まず、分析機関、代表者、住所電話番号、分析責任者が書かれる。 塩の専門分析機関は日本には(財)塩事業センター海水総合研究所しかない。その他多くの分析受託を行う機関がある。海水総合研究所はISO Guide25の認定分析機関で、海外での評価も高く塩の分析では最も信頼がおける。塩の輸出入取引などは海水総合研究所の分析値で取り引きされる。JAB認定の番号とマークが入る。このほか「食品衛生法に基づく厚生大臣指定検査機関」の表示があるものがある。これは主に厚生省所管の分析機関で、食品衛生法などに関連する官公庁関係の諸手続には、厚生省指定検査機関の分析値でなければならない。しかしこれらはある分析技術の水準を保証するものであり、分析の正確さは分析技術者の個々の知識と技量で定まるから、認定を受けないところの分析値が不正確というわけではなく、常時塩分析を行っている場合むしろ優れているところも多い。

3.試料名
 試料名、サンプリング場所、ロットの種類、ロットの大きさサンプリングした日付、試料を送付された日付、分析を行った日付、サンプリングの方法、サンプリングの責任者、などが記載される。
 依頼した分析の場合、依頼した試料と報告書の試料が一致していることをまず確認する。また依頼する場合も、分析の誤差の最も大きなものが、サンプリングにあることを十分留意してみる必要がある。例えばフレコンや船倉の上部と下部では水分値をはじめ多くの分析値に差が出てくる。微量成分や生物検定では、サンプリング時、容器などでの汚染の例が多い。機器容器類の洗浄、滅菌処理、汚染防止には十分な注意が必要となる。いかに権威ある分析機関で分析しても、サンプリングが悪いと分析した意味がない。

4.イオン組成(元素組成)と塩類組成
 分析結果はイオン組成として求められる。主成分はNa、K、Mg、Ca、Cl、SO4の6イオンとされる。極微量しかなくてもこの6成分を主成分とするのは、海水中の主成分だからである。精製された塩では通常マグネシウム及びカルシウムは0.00%となる。
 日本では通常水分を含めた分析値の合計が100%となるように表示する。この方法をWet base という。外国ではしばしば水分を除いた分析値の合計が100%になるように表示し、水分は別立てにする場合がある。これをDry baseという。Wet base かDry baseかは各国の慣習的ルールに従っており、商品表示などにはどの方法か記載されておらず注意が必要である。国際規格案ではDry Baseになっており、将来日本もDry baseに変更される可能性もある。
 高純度塩では主成分分析値を100%から差し引いてNaClとするから合計は必ず100%になるが、高純度塩以外は各分析値から計算でNaClを求め、各成分を合計するから誤差を含み100%にはならない。誤差の大部分は結晶水であり、場合によっては塩化物イオンも問題になる。
 なお塩の特性を考えるには塩類組成で見た方がわかりやすい。イオン組成から塩類組成を求めるには次の計算による2)。 [ ]は濃度%

[NaCl]=[Na]×2.5421
[KCl]=[K]×1.9068
 [SO]×1.4172 = [CaSO4]
([Ca]− [SO4]× 0.4172)× 2.7692 = [CaCl]
[CaCl]が+の場合
  [Mg]× 3.9173 = [MgCl]  
([Cl]− [KCl]×0.4755−[MgCl]×0.7447−[CaCl2]×0.6389)×1.6485=[NaCl]
[CaCl]が−の場合
([SO]−[Ca]×2.3969)×1.253=[MgSO]
([Mg]−[MgSO]×0.2019)×3.9173=[MgCl]
 [MgCl]が+の場合
([Cl]−[KCl]×0.4755−[MgCl2]×0.7447)×1.6485=[NaCl]
 [MgCl]が−の場合
([SO]−[Ca]×2.397−[Mg]×3.9524)×1.4786=[NaSO]
([Cl]−[KCl]×0.4756)×1.6485=[NaCl]


5.ミネラルの多い塩
 湿った塩では固結防止または製品イメージのために苦汁分を残したり、天日塩の溶解せんごう塩では、天日塩の苦汁分が残ったり、海水などで溶解する場合があるから、どの程度を苦汁含有というかは難しい。苦汁分の指標であるマグネシウムで見たとき、食塩、並塩のように固結防止を目的に苦汁分を残している場合は通常0.1%以下であり、苦汁含有、ミネラル豊富をうたっている商品は0.1%以上のケースが多い。
 以下比較的よく市場に出ているものと特徴ある数種を代表に選んで示したものである。苦汁添加でマグネシウムを多くするには限界があり、図1に示すように0.5%以下である。これ以上は、苦汁分が包装袋の底に液体で分離してしまうから、マグネシウム塩を固形塩で加えなくてはならない。
 膜法の塩はややカリウムが多く、塩田の塩はやや硫酸が多い。しかし苦汁として添加した場合は、図2に示すように0.3%程度が限界となる。これ以上のカリウムについては、固形塩としてカリウムが入ることになる。通常は塩化カリウムとして添加している例が多い。しかし製塩で苦汁から副成する塩類を含有させている場合もある。例えば、瀬戸のほんじお、低納塩など。
 厚生省の目標摂取量はマグネシウム0.3〜0.5g/day、カリウム2〜4g/dayとなっており、食塩摂取量13g/dayの中、調味料等の形でなく食塩の形で利用されるのは平均15%以下なので、2g/day中の成分として考えるとき、家庭用塩から摂れる量はマグネシウムで10mg、カリウムで6mgにしかならず、ミネラル補給としての意味はほとんどない。
 生体に必要な元素を表2に示したが、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、のように多量に必要なミネラルを塩から摂ろうということは、塩の摂取量が少ないので基本的に無理がある。しかし日本ではマグネシウム入りの塩、アメリカではカリウム入りの塩が比較的よく売られている。これは健康上の理由よりも、商品の宣伝によって形成されたイメージで一般化したもので、商品に付加価値を付けるための大きな武器であったが、科学的根拠を求められると困ってしまう。
 マグネシウム、カリウムのようなミネラルを海塩から摂るために、苦汁を直接飲むことを推奨した例5)もあるが、高カリウム血症6)、高マグネシウム血症8)の報告もあり、多ければよいというものではない。
 なお現在ミネラルたっぷりのような表示がしばしば行われているが、栄養改善法の改正に伴い、ミネラル表示の11成分が表3のように定められ、ミネラルたっぷり、ミネラル強化などの表示は、Ca0.18%以上、Fe0.3ppm以上に限られることとなり、勝手に使えなくなった。
塩のMg含量(例)
塩のK含量(%)

6.組成とその特徴
6.1 水分
 かさ密度、サラサラ性、など使い勝手に大きく影響する。乾燥塩は通常 0.2%以下の水分となっている。遠心分離機を出てそのままの塩は通常1〜2%の水分があるが、大粒では1%以下となる場合もある。平釜で使われる簀の子(居出場)による自然脱水では5〜15%の水分となるが、天日塩田などの大粒で乾燥地で山積みで自然脱水する場合は2〜3%まで低下させることができる。
 湿塩の製品純分と水分の関係は一般的には図1に示したように基本的には水分比例になる。この平均線は苦汁含有塩で遠心分離機で脱水した場合に相当する。自然脱水で水分の多い場合、天日塩の溶解再結晶の塩、微粒で脱水できない場合、などは線より上方にずれる。脱水を十分に行ったり、粒径が大きく水分が切れやすい場合、乾燥したり、多量の添加物などNaCl以外のものが入ると線より下にずれる。
 なお微粒の場合は乾燥しないと固結しやすく、通常湿った状態では出荷されない。なお塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムなどの結晶水の大部分は通常の乾燥減量(140℃加熱法)では一部しか定量されない。
 また水分は保存中に吸湿したり乾燥したりして変動するから、製品中の水分値は絶対的なものではない。ポリエチレンなどで包装しても変動する。
 
6.2 不溶解分
 製塩過程ではいる泥、砂、などの異物と、人為的に加えた不溶性添加物がある。人為的に加えた添加物は表示しなくてはならない。添加物がないのに不溶解分がある塩は主に天日塩、岩塩で、特に管理の悪い天日塩、夾雑物の多い岩塩などで、何が入っているかわからないから、不溶解分のある塩は直接食用とする塩としては、安全性について要注意である。分析値は0.0n%まで表示されるが、0.01%以上の塩はかなり汚れていると考えた方がよい。国内で膜濃縮で作られた塩はでは、不溶解分は0.000%で溶解濾過したとき着色不純物などはいっさい認められないが、輸入塩の場合は必ずといってよいほど着色不純物がある。天日塩や天日塩苦汁では特に着色が大きい。

6.3 塩類組成
NaCl:塩の純度は、塩の分類基準、価格指標の基本になってきた。生活用塩規格では、精製塩99.5%以上、食塩99%以上、並塩95%以上となっている。純度99%以上の塩は、通常乾燥塩である。
KCl:少量のカリウムは料理の味を引き立てる。多量のカリウムは高血圧対策としての減塩効果を期待できる。というのが従来のカリウムリッチの塩のうたい文句となっている。減塩効果は前述のように実質的には意味のないものといってよい。塩化カリウムが20〜30%以上になるとピリ辛味が強くなり味が極度に悪くなる。しばしば味の悪さを緩和するためにマグネシウム塩、有機酸塩などが添加される。また膜法の国内塩はやや塩化カリウムが多く約0.3%、天日塩ではオーストラリア、メキシコなどで0.05%、 開発途上国では0.1%程度になっている。味に主眼をおいたカリウムリッチの塩では、 塩化カリウムとして、瀬戸のほんじおで9%、減塩主体のライトソルトなどで50%、中 間型の低納塩、パンソルト、良塩などで15〜25%になっている。
CaSO4:石膏またはスケールという。製塩の過程で出てくる。昔の塩は多量の石膏が入っていた。塩田時代、明治末で2%、昭和初期で0.8%の水準だったが、現在は石膏の分離技術が進歩して通常0.2%以下になっている。しかし管理の悪い塩田の天日塩や海水を直接濃縮している各地の小規模製塩などでは1.5%程度残っている。石膏が特に多かったり、変動する塩は管理の悪さの象徴的な意味もあり、注意した方がよいだろう。

表1 苦汁組成 (  )内は平均的組成 単位%
  NaCl KCl MgCl MgSOCaCl
膜法にがり 1-8(5.9) 4-11(7.7) 9-21(14)   2-10 (5.4)
塩田にがり 2-11(5.6) 2-4 (2.3) 12-21(16) 2-7 (5.3)  
  Na K Mg Ca SO
膜法にがり 0.4-3.1(2.3) 2.0-5.7 (4.0) 2.3-5.4 (3.6) 0.7-3.6 (2.0)  
塩田にがり 0.8-4.3 (2.2) 1.0-2.0 (1.2) 3.5-6.5 (5.2)   1.6-2.5 (4.2)

MgCl苦汁成分の代表。塩の表面に付着し、直接舐めたときのまろやかさを演出できる。苦汁の組成は概略表1のような組成をもっている。苦汁は膜法では透明だが、塩田では茶褐色となっており、塩田苦汁を添加したものは、製品が灰黒色〜褐色になる。この茶褐色の成分は、粘土、木竹およびそれらから浸出するフミン酸、鉄錆のコロイド粒子、藻類や好塩菌及びその分解物などが主な着色原因になっている。食品衛生上危険なものではないが、好ましいものではない。
MgSO、CaClおよびNa2SO硫酸マグネシウムのある塩は天日塩など海水から蒸発法の製塩。塩化カルシウムのある塩は膜法製塩。硫酸ナトリウムのある塩は炭酸ナトリウムなどによるかん水精製をした塩。混合した製品、例えば天日塩に国内産苦汁を添加したような場合では両方入ってくるケースが多い。

7. 微量成分
塩に関するISO/FAO国際規格案で問題になっている有害微量成分としては
 Cu 0.02ppm、Pb 0.01ppm、As 0.01ppm、Cd 0.05ppm、Hg 0.01ppm
が対象となっている。塩の微量成分としての無機塩類が食品衛生上問題になる例は従来も極めて希である。しかし専売制がなくなり、外国からの輸入が自由化されて、かなり汚染された状況で生産された塩や、鉱物質の入った岩塩が輸入される例があり、今後は注意する必要がある。
 生体に必要な微量成分を表2に示した。銅とヒ素は有害成分にも必須成分にも挙げられている。多くのものが多すぎてはいけない、なくてはならない、というバランスの上にあると考えてよいだろう。

表2 人体に必要なミネラル(成人必要量の目安/day)8)9)10)
◎:栄養改善法による栄養表示基準制度による表示義務ミネラル
   多量に必要   微量必要 必要量不明
 Cl 0.7-7g ◎ Fe 12 mg S
◎K 2- 4g ◎ Zn 15 As
◎Na <10g ◎ Mn 4 Br
◎P 900mg ◎ Cu 2.5 Sn
◎Ca 600 ◎ I 0.1 B
◎Mg 300 F 0.1 Si
    Co 0.16  
    ◎Se 0.13  
    Mo 0.15  
    V 0.25  
    Cr 0.29  
    Ni 0.19  

 なお塩試験法には重金属(Pb換算)10ppm以下という基準があるが、これは硫化水素による黒変物質を示しており、国際的にも、薬局方など国内の各種基準でも広く使われている。 近年のように毒性物質の規格が厳しくなっている現状では、歴史的なものとなり、今ではほとんど意味がなくなっている。
 臭化物イオンは比較的多い微量成分だが、農産物中の残留農薬としての臭素と、塩の中の臭化物イオンが混同されて問題視されたことがある。しかし塩の中の臭化物イオンは海水起源の無機臭化物イオンであり、食品衛生上全く問題はない。臭素に関する誤解は厚生省の簡易残留農薬試験として、全臭素で残留農薬臭素としてもよいという厚生省通達(例えば昭59米中の臭素検査方法)を拡大解釈して、醤油などの塩の入った食品にこの簡易法を適用したために起こった。
 
8.添加物
(1)固結防止剤
 日本では広く炭酸マグネシウムが使われる。外国で使われるものに、アルミノ珪酸塩(粘土物質)、フェロシアン塩がある。フェロシアン塩は添加量は少ないが酸、熱、光などでシアンを発生するし、毒性データも急性毒性データしかなく、慢性毒性、発癌性、遺伝的影響などのデータがなく、日本では食品添加物として認められていない。フェロシアン添加塩を食用塩として販売、使用、などをすると食品衛生法違反として摘発を受ける。輸入乾燥塩では注意を要する。
(2)各種ミネラル
 有用ミネラルとして注目されているのは、国際的には甲状腺障害防止にヨードが行われているが、日本では海草など海産物を食べる習慣があり、ヨード摂取量は十分とされ、添加されてもいないし、食品添加物として認められてもいない。鉄塩の添加は貧血防止用として注目されている。外国で添加の例があるのは、このほか亜鉛、フッ素などがある。

9.生物検査
 最近HACCP関連企業(食品衛生法第7条に定める総合衛生管理製造過程の承認工場)からの要望が多い。通常は生菌数、大腸菌数が測定されている。生菌数は300ケ/gまで、大腸菌は30ケ/gまでは陰性と表示される。塩独特の菌類としては好塩菌がある。せんごう塩は通常菌類はない。せんごう塩で菌類汚染が出るのはせんごう後の管理が悪い場合である。天日塩は菌類が多く、通常生菌数として105〜106ケ/gは存在する10)。このような問題があるため、HACCPに厳しい米国では、かって天日塩や岩塩を使っていた所でも、食用塩はせんごう塩に大部分転換しているようである。日本でもHACCP対応の食品工場が増加し、食品の安全性に対する認識が強くなっており、食品加工には安全性の面から膜法の国内せんごう塩を使用することが常識になるかもしれない。

文献
1)尾方昇、日本海水学会誌、53,18(1999)
2)日本海水学会、ソルト・サイエンス研究財団編、塩の分析と物性測定、日本海水学会刊 (1992)
3)新野靖、家政学会誌
 新野靖、第40回海水技術研修会テキスト「市販塩の製品調査」、日本海水学会(1999)
4)東京都消費生活総合センター、いろいろな「塩」、(1998)
5)真島真平、白い塩の恐怖、KKロングセラーズ(1996)
6)藤本守、カリウム異常とその対策、メディカルリサーチセンタ(1980)
7)糸川嘉則、斉藤昇、マグネシウム−成人病との関係、光生館(1995)
8)科学技術庁資源調査会編:4訂食品成分表
9)鈴木継美、和田攻編:ミネラル・微量元素の栄養学、第一出版(1994)
10)野田宏行、化学工業326(1976)
11)大西博、日本海水学会誌 47, 320(1993)
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